6月25日に虎ノ門ヒルズ ステーションアトリウムで開催された、154回目のHills Breafast。初めて会場に足を運んだ参加者が多数で、4名の登壇者の個性あふれるプレゼンに真剣に耳を傾けていました。
現場で話を聞けなかった!という人は、それぞれのプレゼンをこちらの動画でチェックしてくださいね。
■ヤマノ タカトシ(Takatoshi Yamano)/Palab(パラボ)代表
【profile】
1989年生まれ、多摩美術大学 環境デザイン学科 卒業。2012年頃より中里洋介と活動開始。産業廃棄物など偶発的に生まれたハザイを「パラレルな世界の素材」と仮定し、そこから見えるもう1つの世界を描き出すラボのようなクリエイティブユニットとして活動。
意図しない形や存在感が“ハザイ”の魅力
「Parallel laboratory」を意味するPalab(パラボ)は、ヤマノさんが多摩美術大学の在学中からナカザトヨウスケさんと一緒に活動を開始した、クリエイティブユニット。産業廃棄物など偶発的に発生した“ハザイ”を「パラレルな世界の素材」と仮定し、そこから見えるもう1つの世界を描き出すのが、Palabのコンセプトです。あえて“ハザイ”と表記しているのは、端材が“もう1つの世界”へ紛れ込んで使えるようになるイメージを表しているとのこと。
産業廃棄物や古民家解体時に出たハザイを用いて作品を作り、展示・発表するのがPalabの活動です。ヤマノさんは、鉛筆の削りカスに例えてそのユニークな視点を説明します。「多くの人は鉛筆を尖らせることに意識が向いて、削りカスを意識しません。けれど、削りカスは意図しない形状になっていて、それがおもしろいんです」
正しさよりも楽しさを大切に、継続を
多くの人にハザイの可能性の大きさを伝えようと、体験型のエキシビション活動も行っています。なるべく親しみやすいテーマを決めるよう心掛けているとのことで、例えば「イチゴ狩り」をテーマに掲げた時には、ビニールハウスを模した空間を作り、その場でハザイをハサミで切って収穫し、それを材料に工作をしてもらったのだとか。
「リサイクル、SDGsなどいろいろな言葉が出回っているけれど、正しさよりも楽しさを大切にしてほしい」とヤマノさん。「環境にいいからやろう」ではなく、「楽しいからやる」。そうでないと、継続ができません。PalabのInstagramには、これまで手掛けたさまざまな作品がアップされています。チェックして、楽しい発見・気付きを得てみてください。
■清水 利生(Toshiki Shimizu)/メンタルスキルコーチ
【profile】
1985年山梨県生まれ。元プロフットサル選手。多数チームのメンタルスキルコーチを歴任。W杯出場選手やオリンピック選手のサポートを行う。子どもの育成にメンタルスキルを導入する活動も行い、携わった子ども達は3万人を超える。メンタルトレーニング事業を展開する株式会社43Lab 代表取締役。
試合で実力を発揮し、結果を出すためのサポートを
山梨県韮崎市出身の清水さんは、小学校から高校までサッカーを、卒業後はフットサルに転向してFリーグでプロ選手として活躍しました。29歳で現役を引退し、第2の人生として選んだのが、メンタルスキルコーチです。清水さんは現役時代、試合前になると不安で眠れなくなる日が続き、そんな辛い現状を救ってくれたのが、メンタルトレーニングだったのだとか。
2018年に独立し、株式会社43Labを立ち上げてアスリートの「結果にコミットする」事業を始めたのは、せっかく身に着けたスキルをなかなか試合で発揮できない、ある野球選手の存在がきっかけだったといいます。「彼の努力を、本番で発揮させてあげたい」。それが事業の始まりでした。現在は、鹿島アントラーズ、ジュビロ磐田といったトップチームの選手を数多くサポートしています。
子どもの自己肯定感の向上にも、メンタルトレーニングが効く
メンタルトレーニングというと、元気がない人を回復させるメンタルケアなどが有名ですが、43Labで実施しているのは、目標達成のためのメンタルスキルを養うこと。大脳生理学、解剖学、心理学を用いて、対象者の行動変容を促しています。「先生のように指導するのではなく、チームや企業のビジョンに基づいて、カスタマイズしてサポートすることを大切にしています」と清水さん。
また、もう1つの事業の軸が、自己肯定感を育てることを目的とした子ども向けのメンタルトレーニングです。これまで5500人を超える子どもが受講し、その子たちの自己肯定感は、内閣府が発表している数値を15%も上回る結果を出しているのだそう。不登校やいじめの予防策として、これからますます注目を浴びそうです。
■マツダ ケン(Ken Matsuda)/イラストレーター・アーティスト
【profile】
1990年生まれ、鳥取県出身。保育士、市役所職員を経験した後、2019年よりアーティスト兼イラストレーターとして活動。クライアントワークや全国で展示活動に精力的に取り組む。動物と植物の共生を軸に、独創的な発想で構成されるその作品は唯一無二の世界観を作り上げる。
輝ける場所で仕事ができているか?を問う
冒頭、会場の参加者に「絵や音楽、スポーツなど好きなことを生業にしたいと考えたことはありますか?」と問いかけたマツダさん。すると、ほとんどの参加者の手が挙がりました。さらに、「今の仕事で自分が輝いているなと考えたことはありますか?」と問うと、手を挙げる人の数は、グッと減ってしまいました。マツダさんはまさに、自分が輝ける場所を見つけ、現在イラストレーター、アーティストとして活躍している人物です。
「まったくさえなくて、いつもまわりの目を気にしていた」と学生時代を振り返るマツダさん。大学の教育学部を出て、そのまま保育士になり、公務員に転職するものの、「特に人の役に立ちたいという意識が強かったわけではない。世間体をある程度満たして、趣味の絵を描ければいい」。そんな気持ちだったといいます。
絵を描いて生きる自分は、人生の主人公
けれど、地元出身のあるバンドのCDジャケットを手掛けた際、「東京で待ってますね」と言われたことをきっかけに、世界が変わり始めます。SNSで絵を公開し出すと、企画展に誘われ、そこで自分が描いた絵を誰かが買ってくれる経験をしたのです。「日陰の中にいたけれど、自分が主人公になったような気分になった」とマツダさん。
公務員は副業がNGのため、仕事を取るか絵を取るかの2択を迫られ、絵を描いて生きる道を選択。現在は、百貨店などでの個展開催、VTuberのグッズへのイラスト提供など、さまざまなジャンルで活躍しています。「“自分自身が輝けるかどうか”を軸に生きれば、間違った人生にはならないのでは」。7月8日まで天王洲アイルで開催中のグループ展に参加しているとのこと。詳細は、マツダさんのSNSをチェック!
■荻田 泰永(Yasunaga Ogita)/日本で唯一の北極冒険家
【profile】
2000年よりカナダ北極圏やグリーンランドで単独徒歩を中心とした冒険を行ない、これまで北極と南極、10000km以上を踏破。著書「考える脚」で第9回梅棹忠夫・山と探検文学賞。日本人初の南極点無補給単独徒歩到達に成功。第22回植村直己冒険賞受賞
そこに北極があるから、冒険に出る。それだけ。
北極、南極を1人で歩く「単独徒歩」に挑み続けている冒険家・荻田さん。大学を中退し、一度も就職をせず20年以上もの間、北極と南極へ足を運んでいるのだとか。「海外旅行は、北極と南極しか行ったことがない」というのだから、驚きです。食べ物やテントをソリに積み、ひたすら歩く。そんな荻田さんのクレイジーともいえる冒険の様子は、バラエティ番組「クレイジージャーニー」でも取り上げられています。
「何をしに行くの?」とよく聞かれるそうですが、「歩きに行くだけ」と荻田さん。「自分はどこまでできるのか、何ができるのか」を知りたくて、冒険の旅に出ているのです。シロクマにテントを荒らされたり、オオカミに遭遇したり。マイナス30~40度の過酷な環境下での出来事は、日本で普通に暮らしていたのでは、絶対に経験できないものです。
冒険者が社会へ持ち帰った経験こそ、価値である
荻田さんは、好きな言葉として、アメリカの詩人ポール・ツヴァイクの「冒険の文学」にある一説を紹介してくれました。「冒険者は、自らの人生の中で鳴り響く魔神的な呼びかけに応えて、城壁を巡らした都市から逃げ出すのだが、最後には語ることのできる物語を引っ提げて帰ってくる。社会からの彼の脱出は、極めて社会化作用の強い行為なのである」。
冒険は、常識の枠や先入観を超えることができる行為で、行った人にしか語れない物語がある。冒険で得た経験、考え方を社会に持ち帰って還元することが冒険の役割だと、荻田さんは語ります。「冒険に何の意味があるの?」とは、チャレンジをしない人の戯言でしかない。行動の前に意味を問うのでなく、まずやってみる。荻田さんの言葉に背中を押された参加者は多かったはずです。
■クロストーク
プレゼンの後は、登壇者4名+MCが自由に語り合うクロストークの時間。アーカイブには残されないトークの様子を、ちょっとだけお届けします。
清水さんのプレゼンに、「僕たちは知育を目的に、ハザイを使った作品作りを保育園でやり始めたばかり。メンタルトレーニングと絡められたらおもしろそう」と、自身の活動との親和性を語ったヤマノさん。
マツダさんは、「枠の外、常識の外へ飛び出すことを“冒険”と、こんなにもかっこよく表現できるんだと思った」と、荻田さんのプレゼンへの感想を述べます。
荻田さんは「冒険中は、感情が邪魔になることがある。人間は自分の願望で未来を決めて行動するけれど、自然は人間に何も計画させてくれない。だから、“今”に対応するしかなくて、そうすると感情は排除しないといけない」と実体験をもとに話します。
それに対して清水さんは、「メンタルトレーニングの世界でも、感情をどのように扱って、自分の行動を変容させるのかがとても重要なので、共感できます」とアンサー。
それぞれのプレゼンに4人共、いろいろな刺激を受けたようです。
■参加者コメント
ここで、会場に足を運んだ参加者の声をお届けします。
◎麻布台ヒルズで働いていて、ヒルズアプリのお知らせでHBFを知り、初めて参加しました。登壇者のプレゼンはもちろん、どんな人が会場に集まるのか楽しみにしていました。荻田さんは、いつも1人で冒険をしているはずなのに、トークがお上手で驚きです。ぜひ、麻布台ヒルズでもHBFを開催してほしいですね。(30代・会社員)
◎登壇者に知人がいて、せっかくなので足を運びました。個人的には、荻田さんが話していた、冒険は魔人的な呼びかけだという話がおもしろかったですね。15年も開催していながら、初めてHBFの存在を知りました。素敵なイベントだと思うので、また遊びに来ます。(40代・会社員)
◎息子がサッカーをしているので、清水さんのお話を聞いてみたくて参加しました。最近、あまり調子が良くなくて、試合に出られずにいる息子へどんな言葉をかけてあげればいいか。清水さんの本を読んで学びたいと思います。参加者同士の自己紹介タイムは、恥ずかしく感じたものの、やってみると盛り上がるものですね。(40代・会社員)
次回の開催は、7月25日(金)夜7時より虎ノ門ヒルズステーションアトリウムにて。Hills breakfast15周年を記念して、現在15歳で活躍されている方や15歳の時から活躍された方が登壇します。イベント終了後には懇親会を予定。登壇者のプロフィールや申し込み方法などはこちらから。