6月14日に開催された144回目のHills Breakfastは、六本木ヒルズ1階のヒルズカフェで実施するラストの回。今回も初参加とリピーターが半々ほどの参加者が集まって、個性あふれる登壇者のプレゼンに耳を傾けました。
現場で話を聞けなかった!という人は、ぜひ4名のプレゼンをこちらの動画でチェックしてください。
■佐藤 雅臣(MASAOMI SATO)/健康ウォーキング指導士、パーソナルウォーキングトレーナー
【profile】
インストラクターとして16年活動。これまで4歳から86歳、知的障害児・者に至るまで延べ4万人以上を指導。正しい姿勢と歩き方を普段の生活の中に取り入れていくことで、心と体の美と健康を手に入れることが出来ます。
歩き方や立ち姿が変わるだけで、第一印象が変わる
スッと伸びた背筋と朗らかなオーラで、45歳の実年齢よりずっと若く見える佐藤さん。30歳からウォーキングトレーナーとして活動を始め、これまでのべ4万人もの人に歩き方や姿勢の指導をしてきました。きっかけは、モデルとしてウォーキングを学んだ20代の頃の体験。それまで人付き合いに重きを置かなかった佐藤さんですが、ウォーキングを始めたところ、なぜかいろいろな人から話しかけられるようになったのです。聞くと、「話しかけやすくなった」とのこと。
自身の変化を目の当たりにして、「ウォーキングはモデルだけが必要なスキルではないのでは?健康増進につながるのはもちろん、第一印象が良くなるのであれば、社会人にとって必要なスキルなのでは?」と考えたといいます。
ウォーキングは社会課題解決のきっかけになり得る
トレーナーになった当初は「なぜ歩くだけなのに金を払うの?」などと言われることもあったとか。メリットをわかりやすく広めるため、師匠である高木真理子さんのメソッドを簡略化してカリキュラム化。そこへ機能解剖学の知識を加えて、独自のメソッドを作り上げたのです。
佐藤さんが目指すのは、ウォーキングを通してノーマライゼーション社会を実現すること。知的障害者への指導もその活動の一つです。あるダウン症の小学生の男の子は、ウォーキングを始めてから洋服に興味を持つようになり、周囲から「かっこいいね」と言われて、食事や運動に気を使い出して、見た目も性格も変わったのだそう。こうした多くの人の前向きな変化が、佐藤さんの原動力です。
■佐野 愛(AI SANO)/国境なき医師団 広報部 シニアイベントオフィサー
【profile】
広告代理店営業・プロデューサー職で鍛錬修行を積んだ後、2021年、子どもの頃からの夢だった念願の現職に転職。海外派遣スタッフが活動地で見聞きした人道危機を日本社会に伝えるイベント・プロモーションの企画制作進行を担当。慶應義塾大学法学部政治学科卒。
超営利企業の営業から、非営利団体への転職
もともと国境なき医師団で働きたいと思っていた佐野さんが、大学卒業後に広告代理店に勤めていたのには、理由があるといいます。「どんなに頑張っても自分が生きている間にできることは限られています。だから仕事を通して、自分がいなくなった後でも物事がいい方向に進む仕組みを作りたい」。
そんな想いを抱いていた佐野さんの中で、民間企業での仕事は、将来を見据えた修業のようなものだったのです。しびれる局面に置かれたときは、「いつか遭遇するかもしれない宗教対立に比べたら、たいしたことはない」と思うようにして、乗り越えていたのだそう。課題解決能力を身に付け、きれい事だけでは世の中はまわらないという現実を知ったこともまた、民間企業で得たことの一つです。
貧しい国に蔓延る、悪しき現実に目を向ける
国境なき医師団は非政府組織で、97%以上が民間化の寄付で支えられています。それは、活動資金の独立性を保ち、特定の団体や権力から影響を受けずに活動するため。災害や紛争などでの人道援助の他、活動時に目の当たりにした人道危機を国際社会に伝える証言活動も大きな役割です。
貧しい国で多くの子どもを抱えた女性を見て「なぜ無計画にたくさん産むの?」といった声を上げる人もいます。しかし、「女性にNOという権利がない。避妊は許されず、性行為を断ると命の危険が及ぶほど暴力を振るわれるので、我慢するしかない。男性は法律によって守られている。これが、南スーダンで活動した助産師が見た事実です」と佐野さん。私たちにできるのは、まず知られざる現実を知ることからです。
■勝川 東(HIGASHI KATSUKAWA)/折紙作家
【profile】
1998年生まれ。千葉県柏市出身・在住。東京大学法学部卒業。東大折紙サークルOrist10期。幼少より折紙に親しみ学習塾を不要とし、論理思考とアート思考を養う教材折紙を推進。柏の葉 アート・イノベーション・スクール役員。著書『はじめての難しい折紙』(KADOKAWA)。
続けることで多くの能力が養われる、折り紙の奥深さ
「折り紙は、デバイスフリーのプログラミング教育だと思う。パソコンなんかいじっている場合じゃない」と話す勝川さん。名前に「東」が入っていることから、幼い頃から「東京大学に入る」と決めていた勝川さん自身、折り紙によって養われた力で見事、合格をしたのですから、その言葉には説得力があります。
折り紙には設計図があり、「要するに資源配分。紙の面積全体をどのパーツに振り分けるかを考えて作られている」と勝川さん。例えば鶴なら、首・顔と2つの羽、尾の4パーツで設計されているのだとか。また、折り順を見ながら折っていく作業を続けることで、「本を読む力や、自分で理解し、見本と手元を比べて試行錯誤して考える力、やり遂げる力が付く」とのこと。
餃子は折り紙? 紙を折るだけが折り紙じゃない
こうした折り紙による多様な能力の獲得について広めようと、勝川さんは折り紙教室を開催しています。この活動のきっかけは、コロナ禍を経て、「受動的に生きていてはいけない」と考えたこと。「能動的に生きる力は、折り紙で養える」と、折り紙の普及に尽力し始めたのです。
一方でさまざまな作品を折り、折り紙作家としても活躍しています。紙だけではなく多彩な素材を使い、深海魚やランプシェードなど多様なテーマで作品を生み出しています。最後に勝川さんが語ったのは、「餃子は折り紙です」との言葉。「つまんで折る餃子作りは、意外と高度な技術」なのだとか。勝川さんの作品が見たい人は、ご本人のSNSをチェックして、7月13日から始まる個展へ足を運んでみて。
■ノイハウス萌菜(MONA NEUHAUSS)/ラジオナビゲーター/斗々屋 広報
【profile】
「のーぷら No Plastic Japan」代表。『使い捨てを考え直すこと』を軸により循環型なビジネスやライフスタイルを提案中。斗々屋には2019年から参加し、日本初の「ゼロ・ウェイスト」なスーパーマーケットをオープン。平日朝はラジオ局J-WAVE ナビゲーター。
使い捨てのゴミを出さない、日本初のゴミゼロスーパー
ノイハウスさんが広報を務める斗々屋は、日本初の「ゼロ・ウェイスト」なスーパーマーケットを展開する企業です。「ゼロ・ウェイスト」とは、言葉通りゴミの量がゼロであること。スーパーマーケットなのに、ゴミが出ないとはどういうことなのでしょうか。
イギリス育ちのノイハウスさんは、8年前から日本で暮らし始めました。日々、買い物をする中で感じたのは、「便利だけれどもったいない」との想い。過剰に包装され、使い捨てのゴミが大量に出るけれど、他に選択肢がない。そのことに課題感を覚えたのです。そうして当時の勤め先で働きながら、「のーぷら No Plastic Japan」を立ち上げ、ステンレス製のストロー開発を始めました。
地球に優しい「量り売り文化」を広めたい
日本は、プラスチック使用量が世界2位の国。「リサイクル率が高いと言われていますが、半分ほどが燃やされていて、燃やしたエネルギーを使うことでリサイクルと言っているだけ」。こうした日本人のような生活を世界の人たち皆がするには、地球が2.8個分も必要なのだとか。
斗々屋が展開するスーパーマーケットは、量り売りのスタイル。あらゆる商品を、客は持参したマイ容器に入れて持ち帰るのです。仕入れ時のゴミにも配慮し、ゴミを出さない形で納品してもらえるよう、生産者にも声をかけているとのこと。その結果、ステンレスの弁当箱の中で発酵させる、ゴミが出ない納豆が誕生しました。「取り組みをしっかりと売り上げにつなげないといけない。ムーブメントを広めたい」。ノイハウスさんの挑戦は始まったばかりです。
■クロストーク
それぞれのプレゼンの後は、4人の登壇者によるクロストークを実施。動画では見られない、トークの内容を少しだけご紹介します。
全員のプレゼンを聞き、「もともとない価値を見出し、形にして提供しているのが共通点のように感じました。皆さんのアイデアと行動力を見習いたい」と佐野さん。勝川さんは「やっていることはバラバラですが、皆人間が生きていく上で必要なことを扱っている。社会福祉に近い、人間の尊厳みたいなところで共通している気がします」と登壇者4人の共通点について話します。
ノイハウスさんが、「4人とも、もっとこれを気にかけて欲しいという想いがある人たちですよね。でも多くの人が余裕を失って、自分以外のことに目を向けづらくなっている気がします。ウォーキングで健康が向上すれば、周囲に目を向ける余裕が生まれるかもしれません」と、ウォーキングの可能性に言及。佐藤さんは「歩くことは生きる上での土台。そこをしっかりすることで、次の可能性が見え、やりたいことができるようになります」と答えます。
そうして佐藤さんは会場から3名を募り、即席ウォーキング講座を開催。ちょっと意識を変えるだけで歩き方がまったく変わり、その効果の高さに参加者たちも他の登壇者たちも驚いていました。
■参加者コメント
ここでいくつか、参加者の感想をご紹介します。
◎ヒルズアプリを見て気になっていましたが、今回初めて足を運びました。勝川さんの話を聞いて、子どもを折り紙のワークショップに参加させたいなと思いました。Hills Breakfastは朝活ができるのも良いですし、知らない世界を知ることができ、とても充実したイベントですね。
(40代・ヨガインストラクター)
◎アークヒルズに勤めていて、エレベーターにあるモニターで今回の登壇者を知りました。折り紙が好きなので、勝川さんの話を聞きたくて初参加です。紙をサビで染めたり、紙以外の素材を使ったりとさまざまなこだわりを知り、発見がありました。Hills Breakfastは朝にパッと短い時間でいろんな話を聞けるのが、いいですね。
(50代・エンジニア)
◎「ゼロ・ウェイスト」なスーパーマーケットに興味があって、4回目の参加です。ウォーキングも折り紙も人道援助も、どの話もおもしろかったですね。登壇者と直接話をして、交流できるのもHills Breakfastのいいところ。佐野さんに、民間企業から非営利団体へのキャリアチェンジについて話を聞きました。また足を運びます。
(40代・会社員)
Hills Breakfastは、7月より虎ノ門ヒルズに開催拠点を移します。初回は、7月17日(水)夜の時間に「虎ノ門ヒルズ ステーションタワー ステーションアトリウム」で開催するスペシャルな回です。隣接する虎ノ門ヒルズカフェでの懇親会もありますので、ぜひご参加を。詳細はこちらから。