139回目のHills Breakfastは、2024年の初回にふさわしい特別版。2023年11月にオープンしたばかりの「麻布台ヒルズ」森JPタワーの33階にある複合施設「ヒルズハウス」にて、100名近い参加者を迎えて開催されました。大きな窓から、間近に東京タワーを望める最高のロケーションの中、4人の登壇者たちがそれぞれの想いを語りました。
参加できなかった!という人は、各登壇者のページからアーカイブ動画をチェックしてくださいね。
■関 大悟(TAIGO SEKI)/CREATIVE LABO株式会社 代表
【profile】
フィジカルトレーナーとして、サッカー選手を中心としたアスリートの身体をサポート。育成年代からプロ選手まで幅広く指導。新横浜で運営するジムにはたくさんのプロ選手が通っている。ジムでは、小学生の運動環境として基礎運動能力を高める指導もしている。
アスリートの「才能」と「努力」の関連性に注目
なでしこジャパンで活躍する日本代表選手など、多くの一流アスリートの身体のケアを任されている関さん。その中で考えたのは、スポーツをする人たちの「才能」と「努力」についてでした。才能があるのに努力しない選手がいる一方、才能はそこそこだけれどひたすらに努力する選手もいる。
関さんによると、競技遺伝率は65%と言われているのだとか。これは、スポーツの才能は遺伝による部分が大きいということを表しています。「努力しなくても日本代表チームに入れる人がいて、残酷なことにそれは偶然で決まっている」と関さん。しかしながら、「それでも残りの35%にすべてをかけて、才能に関係なく努力する人にプロとして活躍してほしい」と願っています。
アスリートの成長を左右するのは、小学生時代の環境
人間の未来志向性や内省が成熟するには、30歳までかかるといいます。そのため、「10代、20代の選手に『未来から逆算して行動しろ』と言っても難しい」と話します。でもスポーツ選手のピークは短い。だからこそ、どの年代を最も大切に過ごすべきなのか。関さんは、「心も体も未成熟な小学生時代に、どういう環境で育ったかが大事なのではないか」との考えに至ります。
参加者に「子どもの成長にとって一番必要なことは何だと思いますか?」と関さんが問いかけると、「愛しかないです」との声が。関さん自身、「明るくて前向きな子は、愛を受け止めるのがうまい。親から愛情をもって育てられている」と感じているのだそう。才能を超える「何か」は、努力や愛によって育まれるのかもしれません。
■石川 加奈子(KANAKO ISHIKAWA)/株式会社grigry 代表取締役社長
【profile】
早稲田大学卒業後、内閣官房内閣情報調査室にて情報収集・分析業務に従事。2013年に渡米、危機管理の教育・研究を行う米NPO法人にて総務開発部長を務める。帰国後コンサルタントとして独立。2019年春MBA取得。同年7月grigryを設立し「スマートお守りomamolink」を開発。
日本でも1日約150人が性被害に遭っている
石川さんが人生を捧げて解決に取り組んでいる社会課題、それは性暴力です。性暴力被害が少ないと思われている日本でも、年間で推計5万2000件の性被害が報告されているのだそう。警察が「なぜその被害者を狙ったのか」と犯人へヒアリングすると「たまたま1人で歩いていたから」との回答が多数。これは誰でも被害に遭う可能性があることを表しています。
石川さん自身、若い時に性被害を受けたことがあり、以来20年間も「あの時どうすればよかったのか」「また同じことにあったらどうしよう」といった想いが消えなかったといいます。そうした背景から、「自分自身や大切な人を守るための仕組みを作って、安心安全を高めていきたい」と、独自に防犯・護身用のアイテムを開発したのです。
お守りのように持ち歩きたくなる、防犯・護身アイテム
それが、「スマートお守りomamolink」。もしもの時にしか使えないものを毎日持ち歩くのはめんどくさいだろうと考え、普段から持ち歩いているものに、防犯・護身テクノロジーをつけるアイデアを思いつきました。蓋を開けると大事なものを入れるスペースがあり、お守り代わりに気軽に持ち歩けるのが特徴です。
非常時には振るだけで起動し、事前に登録している緊急連絡先にGPSの位置情報が届く仕組み。証拠を残すための録音機能、危機を知らせるブザーなどもついています。さらなる挑戦として、「防犯・護身のダークなイメージを変えたい。そして、安全の格差を解消していきたい」と石川さん。想いとアイデアを見事に形にした彼女の挑戦は続きます。
■神山 ナオミ(NAOMI KAMIYAMA)/NY式ウェルビーイングコーチ
【profile】
ビジネス英語スクール、企業研修、イベント企画・運営の事業で18歳から起業。4人の子育て、両親の介護・看取り、大病の克服、様々な経験から現在、個々の能力・魅力を引き上げる大人の学びサロンOBL主宰、12次元までエネルギー調整をするタイムウェーバーを銀座サロンで行う。
世界を舞台に活躍。しかし介護や看取り、大病を経験
18歳で起業し、日経新聞の英字媒体を使ったビジネス英語スクールを運営。24歳の時にはNYへ移住し、日本文化に興味を持つ人のコミュニティを運営しながら、現地で出会った日本人と結婚し、4人の子どもをもうけた神山さん。2018年にはタイへ移住。企業とのタイアップなどのビジネスを手掛けていましたが、コロナ禍が訪れる前に帰国します。
すると、母が倒れて余命を宣告され、介護と看取りを経験。その後には父を介護し、看取りました。その時に感じたのは、「18歳からさまざまな経験を積んできたけれど、母との時間を作れなかった」という後悔だったといいます。その矢先、神山さん自身がすい臓がんで余命宣告をされる事態に。医師に「手遅れだ」と言われ、「毎日泣いていた」と話します。
自分にとっての「幸せ」とは何か?心も体も健康に生きる
そんな時に出会ったのが、社会教育家で真言宗弘法寺 管長の小田全宏氏。「辛い壁があっても、その先には成長しかない」と言われ、仏門に入ります。そうして、「求めるものが得られない苦しみ=求不得苦」ととことん向き合いました。
大病を克服し、掲げている人生のテーマは「自立」。自立には「経済的自立」「社会的自立」「感情的自立」がありますが、「感情的自立ができてない人が多い」と神山さん。「自分の感情的自立と向き合えば、本当のウェルビーイングに出会える」と、現在は、ウェルビーイングを広める活動に邁進中。多くの困難を乗り越え、自分自身を知り、世の中を俯瞰する力を身につけた神山さんがこれからどんな活躍を見せるのか。今後が楽しみです。
■加納 慎太郎(KANO SHINTARO)/LINEヤフー株式会社所属 パラフェンシング日本代表
【profile】
福岡県出身。16歳で交通事故により義足に。義足について学ぶべく熊本総合医療リハビリテーションへ入学し、パラフェンシングと出会う。2021年東京パラリンピックに出場。現在は2024年パリパラリンピックに向けてメダル獲得を目指す。
バイク事故で義足に。パラフェンシングと出会う
「フェンシングを知っている人?」と加納さんが呼びかけると、会場のほとんどの人が手を挙げました。加納さんは、ピストと呼ばれる台に車いすを固定して、腕を伸ばすと剣が届く距離で行う、車いすフェンシング(パラフェンシング)の選手。2021年東京パラリンピックにも出場した、実力の持ち主です。
16歳の時、バイク事故で左足の膝から下を切断。義足生活を余儀なくされました。聞くと、どれだけ辛かっただろうと思いますが、加納さんは「大変なこともあったけれど、今では良かったと思っている」と明るく話します。「16歳当時、憧れていたバイクに乗れた。事故に遭ったけれどリハビリのために剣道をやり、それが今やっているパラフェンシングにつながっているから」と。
2024年パリ大会の出場を目指して、日々邁進!
パラフェンシングは車いすに乗って行う競技ですが、上半身だけでなく全身を鍛えるのだそう。義足を外してクライミングをしたり、水泳をしたりと、さまざまなものをトレーニングに取り入れています。コロナ禍で練習がままならない時でも、自宅の駐車場で熱心に練習し、東京パラリンピックへの出場権を手にしました。プレゼンでは、当時の選手村の様子など写真を映しながら、貴重な経験を話してくださいました。
現在は、今年開催されるパリパラリンピックを目指して、日々トレーニングと練習に励んでいます。海外12か国をまわり、武者修行も。先日はフランスの大会で優勝し、着々と日本代表の座へと歩みを進めています。大きな舞台で躍動する加納さんの姿を見られる日が、待ち遠しいですね。
■クロストーク
配信動画では見られない、登壇者4人のクロストークをちょっとだけ公開します。
石川さんのプレゼンを聞き、「とても勇気がいること」と感銘を受けた神山さん。神山さん自身、電車で隣に座った人が触ろうとしてきた経験があるといいます。「その時はただ1人でいただけ。露出の高い服を着ていたわけではない。1人でいるだけで狙われやすいことがあらためてわかりました」と話します。
3人の子どもがいる関さんは、「子どもが性被害に遭うなんて考えたくない」と危機感を覚えた様子。「私自身、小学校の時に電車でおじさんに触られたことがある」と男性であっても性被害に遭う危険があることを語ってくれました。
体格が良く、見るからに強そうな加納さんも、「遠征で海外にたくさん行っているが、道を歩いていて不安な時がある」と話します。そして、「『スマートお守りomamolink』は、海外でも使えますか?」と質問。「今は海外では使えませんが、いずれ世界へも展開したいと思っています」と石川さん。それぞれが実体験を語りつつ、石川さんの今後の展望もうかがえる有意義なトークタイムとなりました。
この後、会場を移して新年会を開催。軽食やドリンクが振る舞われ、登壇者との交流はもちろん、初めて会う人同士でも気軽に声をかけあって、和気あいあいと楽しい時間を過ごしていました。
■参加者コメント
ここでいくつか、参加者の感想をご紹介します。
◎麻布台ヒルズに来てみたかったし、33階に上がれる貴重な機会だと思って参加しました。私も若い頃に性被害に遭いましたが、その時は何もできませんでした。そういう時の対処法は学校では教えてくれない。石川さんが開発したデバイスがあれば良かったなと感じました。いいロケーションで話が聞けて良かったです。(50代・会社員)
◎視覚障害者のガイドヘルパーの資格を持っているので、加納さんの話が興味深かったですね。生まれながらに障害があるのと、健常者から障害者になるのとではまったく世界が違うと視覚障害者の方が言っていたことを思い出しました。現役のパラアスリートの話が聞けたのは貴重な経験でした。(40代・ヘルスコンサル/納棺士)
◎知人に誘われて、初めて参加しました。自分にも娘がいるので、石川さんの性被害の話は、他人ごとではないと思いましたね。医療系の仕事をしているので、関さんの話も興味深かったです。Hills Breakfastは明るい雰囲気で、多種多様な人がいておもしろい場だなという印象です。(30代・整体院経営)
◎登壇者は皆さん辛い経験をしていますが、だからこそ、今ポジティブでいられるのだと思います。自分に当てはめて考え、まだまだ頑張りたいとパワーをもらいました。大病を乗り越えた神山さんの今の姿を見て、苦難をポジティブに変換する思考を見習いたいと思いました。Hills Breakfastは多様な考え方を知ることができ、視野が広がりそうだと感じました。(50代・経営者)
次回は、2月28日(水)朝8:00~、いつもと同じ六本木ヒルズ ヒルズカフェにて開催します。詳細、申し込みはこちらから。